有機色素増感型太陽電池は低コストで作製できる次世代型の 太陽電池として注目を集めている。その実用化のためには、真に優れた性能を発揮する増感色素を開発し、これによりいかに光電変換効率を向上させることができるかが重要な鍵となる。これまでに多くの有機色素の開発研究が国内外で活発に行われているが、 色素からTiO2電極への効率的な 電子注入を可能にするために、既存のπ共役骨格にシアノアクリル酸といった強い電子求引性の アンカー骨格を導入した色素に限られているのが現状である。飛躍的な光電変換効率の向上のためには、 新しい分子設計コンセプトに基づいた画期的な増感色素の開発が必要である。
我々のグループでは、ホウ素を鍵元素として用いて、分子内で窒素からホウ素への配位結合をもつ π共役骨格を電子受容性骨格に用いた独自の分子設計コンセプトを提唱し1)、これに基づいた一連の増感色素材料の開発に取り組んでいる。この骨格は、ホウ素上の置換基の特性に応じて電子受容性の精密制御が可能であることから、従来法では十分な電子受容性を付与することが困難であったカルボン酸やリン酸等を含む 様々なアンカー骨格を導入した、光電変換に最適なエネルギー準位を有する多様な色素の開発が可能となる。
実際に、この分子設計のモデル化合物としていくつかの色素を合成し、これらを用いて色素増感太陽電池を作製した結果、可視光領域において90%近くにおよぶ光電変換特性を示し、現時点で6.8%の太陽光エネルギーの変換効率を示す色素増感太陽電池の作製に成功している。現在、さらに高いエネルギー変換効率の達成を目指して、増感色素材料の開発研究を行っている。
また、この他にも様々な企業との共同研究として、有機薄膜太陽電池の新しいp型材料およびn型材料 の開発(NEDO)や、バイオテクオロジー研究者との共同研究で天然物を用いた有機太陽電池の開発研究(JST-先端的低炭素化技術開発(ALCA))にも精力的に取り組んでいる。
「有機色素材料及びそれを用いた色素増感型太陽電池」
若宮淳志, 谷口拓弘, 村田靖次郎, ジョアン・ティング・ディー, 瀬川浩司
特願2011-53597, PCT/JP2012/56205 (WO 2012121397).